• 豆知識

矯正治療について①

 前回は、歯並びについてお話しをしました。歯並びの矯正は、今やマウスピースでできます。さらにマウスピースでの矯正は全盛期を迎えつつあります。以前お話ししたように、5年前と比べたら、マウスピースで治せる歯並びがかなり増えてきました。マウスピース矯正が出始めの頃は、少しがたがたした歯並びを治す程度だったのですが、今ではかなり歯並びが悪かったり、ゆがんだ歯並びでも、ある程度治せるようになっています。矯正力が強くなっているのですね。やはり患者様目線で考えた場合、見た目もきれいですし、取り外しもできますから、いいことづくめなのだと思います。ただし、そうはいっても苦手とする動かし方もあります。

 奥歯を前に持ってくる動きなど、動きはしますが、少し傾いてしまったりすることがありますので、慎重にやらないとなりません。私もまだ、4番目の歯を4本抜くような矯正では、針金を使っています。かなり乱れた歯並びの方は、無理やり並べようと思っても並びませんので、4番目の歯を4本抜いて矯正をすることになります。前から4番目の歯を、上下左右1本ずつ抜くのですね。とてもポピュラーな方法で、針金矯正しかなかった何十年も前から行われている、普通の治療方法です。

 歯並びがかなり悪い方は、顎が小さいのに歯が大きい、あるいは、自分の顎に対して歯が大きいことから、がたがたになっています。顎のサイズと歯のサイズがそろっていれば、ある程度は勝手にまっすぐになるものです。しかし、歯並びが悪かったり、3番目の歯が押し出されている、いわゆる八重歯は、自分の顎が小さくて、歯が大きいからなってしまっているので、無理やり針金や、マウスピースでどうにかしようと思っても、並ぶわけがないのです。その場合は、1本抜いて隙間をつくり、そして改めて並べるということになります。この場合は、私は今でも針金を使用して行うことが多いです。

 たまにマウスピースでやることもありますが、やはり動きがとても遅かったり、意図せず傾いてくることもあり、治すのに苦労することもありますので、針金を使用しています。ただし、これも歯科医の考え方によっては種々さまざまあり、もっと簡単なものでも、全部針金を使用する先生もいれば、逆に抜歯矯正でも、マウスピースでされている先生もいますので、今が過渡期といえるでしょう。針金を選ぶか、マウスピースを選ぶか、歯科医師側の判断としてあります。7年ぐらい前までは、100%針金しかありませんでした。一部マウスピースもありましたが、1%以下のシェア程度でした。この5~6年でマウスピース矯正が増えてきた結果、全体数として矯正される方が非常に多くなってきています。見た目的にはマウスピースを選ぶ患者様が多くなる傾向にあります。マウスピース矯正から始めた矯正の先生もいっぱいいらっしゃいますし、患者様側でも、マウスピースだから矯正した、という方も大勢いるかと思います。

 少し前ですが、歯の裏側にする矯正を、芸能人がよくやっていました。15年ぐらい前から5年前ぐらいにかけて、一大ブームとなっていました。少しお値段も高かったですし、難しかったです。見えにくいことは見えにくいのですが、少しちくちくしますし、治すまでに非常に時間がかかることなどもあり、難易度が高い矯正方法でした。それもマウスピース矯正が出てからは、シェア的にかなり押されています。もちろん今でも使用している歯科医の方もいますが、今はやはり、マウスピース矯正が大流行なのではないでしょうか。

 一つ面白いエピソードがあります。業界的な話になりますが、私は針金矯正で、ブラケットというものを貼った上で、針金を使っています。実はこの間、メーカーの工場ごと閉鎖になってしまったのです。デンツプライシという国産メーカーで、日本の中では大きなシェアを占めており、個人的に好きなメーカーでした。デーモンを少し取り入れたようなシステムで、私の好きな動き方をする、お気に入りのブラケットでしたので、勤務医の頃から15年ぐらいずっと使い続けていたものです。それが、なんと販売停止になりました。おそらく、ブラケットやワイヤーの需要が減ってしまって、売れなくなったから、工場ごとラインごとストップされたのだと思います。販売してくれる材料屋の方を通じて聞いたことですが、大企業ではあるものの、製造ごと中止して工場閉鎖になったということでした。まだ私は在庫を持っていますけれど、今度から針金ワイヤー矯正を選択したときに、どこのメーカーにしようかと、新メーカーを悩んで選んだところです。おそらくは大企業しか生き残っていけない環境でしょうから、中小メーカーのブランケットやワイヤーは難しくなる可能性があるのではないかと考え、今回は有名なメーカーを選びました。

 このようなことが矯正業界ではあるぐらい、マウスピースが一大ブームになっています。その中でも、特にマウスピースで先行しているのは、インビザラインです。その昔、日本に、アソアライナーといって、素晴らしい技工士である阿曽さんという方が開発した、インビザラインの日本人バージョンがありましたが、シェア的には、ほとんど今ではなくなってしまい、インビザラインに取って代わられています。インビザラインに似たようなそっくりさんも多く出てきていますので、これからそれらが、どれぐらいインビザラインのシェアを取りにいくのか、それともインビザラインの横綱相撲がこれからも続くのか、矯正の世界はどうなっていくのかという、今はそのような状況になっています。