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唾液は“歯の自動修理工場”|再石灰化のしくみと大切な役割

唾液を検査する様子

 

「歯は一度削ったらもう元には戻らない」とよく言われます。確かに、むし歯で大きく穴があいてしまった部分や削って詰め物をした歯は、自然に元通りになることはありません。しかし実は、歯には“軽度のダメージを自分で修復する力”が備わっているのをご存知でしょうか?その立役者となるのが唾液です。唾液は単なる口の中の水分ではなく、まさに“歯の自動修理工場”といえる存在なのです。

 

むし歯はどうやってできる?

私たちが食べ物や飲み物を口にすると、歯の表面に住む細菌が糖を栄養にして酸を作り出します。この酸によって歯の表面のカルシウムやリン酸が溶け出す現象を「脱灰(だっかい)」といいます。脱灰が繰り返され、歯の表面のエナメル質がスカスカになり、やがて穴があいてしまうと、それがむし歯として進行していきます。

 

再石灰化とは?

実は、脱灰によって歯から溶け出したカルシウムやリン酸は、唾液の中にも豊富に含まれています。唾液が酸を中和して口の中が中性に戻ると、これらの成分が再び歯の表面に沈着し、ダメージを補修してくれます。この自然な修復作用を「再石灰化(さいせっかいか)」と呼びます。つまり唾液は歯の溶け出しと修復のバランスを日々調整し、むし歯の進行を防ぐ重要な働きを担っているのです。

 

唾液が持つ3つの重要な役割

唾液は再石灰化以外にも、口の健康に欠かせない役割をいくつも果たしています。

1. 洗浄作用:食べかすや細菌を洗い流し、口を清潔に保つ
2. 中和作用:酸性に傾いた口の中を中和し、脱灰の進行を止める
3. 再石灰化作用:カルシウムやリン酸を供給して歯を補修する

こうした一連の働きがあるからこそ、私たちの歯は長い年月を健康に保つことができるのです。

 

唾液の力を引き出す生活習慣

唾液は自動的に分泌されていますが、その量や質は生活習慣によって大きく変わります。唾液の働きを十分に活かすために、次のような工夫がおすすめです。

1. よく噛んで食べる

噛む刺激は唾液腺を活発にし、分泌量を増やします。食事の際は急がず、一口30回を目安によく噛む習慣を意識しましょう。特に繊維質の多い野菜や海藻は噛む回数を自然に増やしてくれます。

2. だらだら食べを避ける

間食や甘い飲み物をだらだらと口にすると、口の中が酸性の状態に長くさらされ、脱灰が進んでしまいます。食事と間食の時間をしっかり区切ることが、再石灰化の時間を確保するコツです。

3. 水分補給は水やお茶で

ジュースやスポーツドリンクは糖分や酸を多く含み、唾液の働きを妨げます。水や無糖のお茶で口を潤すことが、歯を守るためには理想的です。

4. 口呼吸より鼻呼吸

口呼吸が習慣化すると口の中が乾燥し、唾液が不足してしまいます。日頃から鼻呼吸を意識し、睡眠時のいびきや口呼吸が気になる場合は歯科医院に相談しましょう。

5. 唾液腺マッサージ

耳の下や顎の下を優しくマッサージすると、唾液の分泌が促されます。特に高齢の方やお薬の影響で唾液が減りやすい方に有効です。

ご飯を食べる様子

 

フッ素で再石灰化をサポート

再石灰化の力をより強めるにはフッ素が効果的です。フッ素は歯に取り込まれると酸に強い構造を作り、再石灰化を促進します。歯磨き粉やフッ素塗布などを取り入れることで、唾液の力と合わせてむし歯予防効果を高めることができます。

 

まとめ

歯は一度失ってしまうと自然には再生しません。けれども「初期のむし歯」であれば、唾液が持つ再石灰化の力によって回復できる可能性があります。そのためには、唾液がしっかり働ける環境を整えることが大切です。

よく噛む、だらだら食べを避ける、水やお茶での水分補給、鼻呼吸を意識するなど、日常のちょっとした工夫で唾液の力を引き出すことができます。

歯科医院での定期検診やフッ素ケアと合わせて、唾液という“自動修理工場”を味方につけて、大切な歯を守っていきましょう。

理事長 福原隆久

医療法人隆歩会 あゆみ歯科クリニック

理事長 福原 隆久 監修

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