よく噛む人は老けにくい?噛む力と健康寿命の知られざる関係【歯科医解説】

「よく噛んで食べましょう」と言われたことは、一度や二度ではないはず。子どもの頃から聞き慣れたこの言葉、実は、私たちが思っている以上に重要な意味を持っているのをご存知でしょうか?
近年の研究では、「噛む力」が健康寿命を左右するほど大切であることが明らかになってきました。特に中高年以降では、噛む力の低下が体の老化、認知症のリスク、さらには全身の筋力低下にもつながるとされています。
この記事では、「よく噛むこと」がもたらす驚くべき効果や、健康を守るために今日からできる噛む力の鍛え方をご紹介します。
目次
「噛むこと」がもたらす5つの健康効果
① 脳を活性化し、認知機能の維持に
噛むという動作には、脳への血流を促進する効果があります。しっかり噛むことで脳が刺激され、特に記憶や学習を司る「海馬」の働きが活発になるとされています。
実際、噛む回数が少ない人は認知症の発症率が高くなるという研究もあり、「噛む力」は脳の健康と密接に関係しています。年齢を重ねても自分らしく過ごすためには、「歯を残す」「噛める口を維持する」ことが鍵なのです。
② 食べすぎ防止・肥満予防に役立つ
よく噛むことで、満腹中枢が刺激され、自然と食べすぎを防ぐことができます。噛まずに飲み込むように食べると、脳が満腹を感じる前に食べすぎてしまい、結果として肥満や生活習慣病の原因になることも。
さらに、噛むことで消化酵素の分泌が促進され、胃腸の負担も軽くなります。健康的な食生活の基本は「よく噛むこと」から始まるのです。
③ 姿勢や筋力の低下を防ぐ
「噛む力」は、口の中の筋肉だけでなく、顔・首・肩・全身の筋肉にも影響を与えます。噛むときには、顎の筋肉が使われますが、それと連動して首や背中、腹部の筋肉も微細に働いています。
噛む力が弱くなると、こうした連動が失われ、姿勢の崩れやバランスの悪化にもつながります。転倒リスクを下げ、フレイル(加齢に伴う虚弱)を予防するためにも、噛む力の維持はとても重要なのです。
④ 免疫力の向上につながる
しっかり噛むと唾液が多く分泌されます。唾液には、抗菌作用やウイルスの侵入を防ぐ働きがあり、口の中の健康を守るだけでなく、体全体の免疫機能をサポートします。
特に高齢者では、唾液の分泌が減ることで口内炎や誤嚥性肺炎のリスクが高まることがあります。噛むことで唾液を増やし、口腔内の環境を整えることは、感染症予防にもつながります。
⑤ ストレス緩和や精神安定にも効果的
噛むことはリズム運動の一種とされ、セロトニンという「幸せホルモン」の分泌を促すと言われています。ガムを噛むと気持ちが落ち着いたり集中できると感じた経験がある方も多いのではないでしょうか。
日常的にしっかり噛んで食事をすることは、精神面でも安定につながります。
あなたの「噛む力」は大丈夫?セルフチェック!
下記の項目にあてはまるものがある方は、噛む力が弱ってきているサインかもしれません。
・硬いものが噛みにくい(たくあん、せんべい、焼きイカなど)
・食べ物を小さく刻んでから食べている
・噛んでいると顎が疲れる
・入れ歯が合わず、うまく噛めない
・食事の時間が短く、飲み込むように食べてしまう
ひとつでも当てはまる方は、今からでも「噛む習慣」を意識することが大切です。

噛む力を維持・向上させるためにできること
① 噛みごたえのある食品を意識して取り入れる
柔らかい食事ばかりでは噛む力は衰えてしまいます。ごぼうやれんこん、切り干し大根、玄米など、しっかり噛まなければ飲み込めない食材を積極的に取り入れましょう。
ただし、歯が弱い方や入れ歯を使用している方は無理のない範囲で。
② 一口30回を目標に噛んでみる
実際に数えながら噛んでみると、30回というのは意外と長く感じるかもしれません。しかし、これだけで満腹感が増し、食事の満足度が大きく変わります。
ゆっくり噛むことで食材の味もしっかり楽しめ、心にも余裕が生まれます。
③ 歯科での定期チェックを受ける
「歯が痛い」「噛めない」ことを放置していると、噛む力は確実に低下していきます。虫歯や歯周病の早期発見・治療に加え、入れ歯やブリッジの調整も非常に大切です。
噛む力を保つには、歯科でのメンテナンスが欠かせません。
まとめ:「噛むこと」は、今日からできる健康法
「よく噛むこと」は、お金も道具もいらない、誰にでもできる“究極の健康法”です。
脳、筋肉、免疫、メンタル、すべてに関係する「噛む力」は、年齢に関係なく維持していくべき大切な習慣です。
今夜の食事から、一口ひとくちを意識して噛んでみましょう。きっと、体と心に嬉しい変化が訪れるはずです。
医療法人隆歩会 あゆみ歯科クリニック
理事長 福原 隆久 監修